伊予原 新著作の八月の銀の雪は5編で構成される短編小説集です。
小説の中の表現や言葉が美しく、読んでいて心温まるような小さな光を感じられる小説になっています。
地球と科学に関する描写がこまやかで美しい
八月の銀の雪に登場する5人はそれぞれ違った悩みや心の傷を抱えています。
日常の何気ない一コマの中で、出会う人と科学的に裏付けられた事実を通して、小さな希望の光を見出す、
そんな構成の5つのストーリーが書かれています。
著者が理系の東大大学院卒業というだけあって、地球や科学に関する表現も描写も細やかで美しく、そして詳細です。
詳細といっても小難しいというわけでもなく、自分の成長の糧になるようなヒントを教えてもらったような気持ちになれます。
短編ではなく、長編でもっと読みたくなるような心温まる物語に癒されます。
科学の力で悩みを解決する、著者ならではの視点

科学の知識にヒントを得て悩みを解決していく展開の物語は、地球科学関係に詳しい著者ならではの視点です。
例えば冒頭の短編、八月の銀の雪に出てくる地球の層構造と人の心を対比させた表現はなるほどなと思いました。
表面だけを見ていても、人のことは理解できない。それが当たり前のことで、意外なことなどでは決してないということを、主人公は気づきます。
続く4編の物語にも、それぞれに小さな気づきを科学の知識とともに読者に与えてくれます。
どんな立場の人の悩みも美しい文章で表現
無責任な夫に離婚された子持ちのシングルマザーの悲しみと苦しみがテーマの短編、「海へ還る日」も八月の銀の雪に収録されています。
ともすれば目に余るような表現が使われがちなテーマも、この著者の手にかかれば美しい表現が使われた心温まる物語に代わります。
人が考えていることは想像はできても、クジラが考えていることは想像もできない。
そのことに気づいたとき、物語の主人公は自分たちが何も知らないということに思い至ります。
クジラの歌の話とシングルマザーの抱える悩みを見事につなげた物語展開はさすがだとおもいました。
まとめ
八月の銀の雪は登場人物一人一人が抱える重苦しい悩みに、小さくても希望の光を与えるような短編が5つ収められています。
地球科学の知識と登場人物の細やかで美しい、心理描写が秀逸です。
すべての短編を読み終えた後、もう一度最初から読み直したくなりました。