ミステリー 書評

冤罪がテーマの社会派ミステリー、「正体」書評

何の面識もない家族3人を殺した罪で死刑囚となった少年が主人公

染井為人著作の「正体」は一家3人を殺した罪で死刑となった少年が主人公のミステリー小説です。

当初はどんな凶悪犯かと思いながら読み進めましたが、

読んでいくうちに本当にこんな優しい、いい人にしか見えない人が何の面識もない家族を3人も、

幼子も含めて殺したのだろうかと不思議に思いました。

最後まで読み終えたとき、日本の法律は完ぺきではないことと

日本人は不寛容で決めつけて人を非難しはじめたら止まらないという現実を考えさせられました。

この小説の肝となるキーワードは「冤罪」「民家に押し入って人を殺す事件」「模倣犯」「冤罪を作り出し、永遠にそれを許さない社会」

だと思います。

冤罪に苦しむ人物の心理描写が見事

小説・「正体」に登場する人物の一人である弁護士がやってもいない痴漢をやったと周囲に決めつけられ、

拡散までされて精神的に追い詰められ、一時は死んでしまおうかと考えた時の心理描写が的確でした。

みんなが言うからきっとこうなんだろうと決めつける、そして永遠に許さない、昨日まで親しくしていても関係なくそれだけで排除する、そんな態度は日本のどこでも見られる光景ですよね。

やってない!ってどんなに叫ぼうとも「嘘つき」「頭がおかしい」などと冷たい視線を向けられるだけというのはどこの世界でも変わりませんね。本人のことは本人にしかわからないのに、他人がどうしてそんなにしつこいのでしょうか?

管理人も読んでいてこの弁護士の涙と苦悩に共感しました。

どんなに違うと叫んでも聞き入れない周囲の人間誰も信じてくれない状況、インターネットに拡散された情報から繰り返し押し付けられる「あいつはやった」という烙印を前に、いっそ死んで楽になれたらと思う気持ちが本当によくわかります。

死のうとして雪山を前にする弁護士に声をかけたのが主人公の少年死刑囚です。

小説「正体」とは、日本人が持つ「冤罪を作り出すシステム冤罪でも1度疑ったら永遠に社会的制裁を食らわせ続ける執拗さ

に目を向け、一石を投じるような内容の小説だと管理人は思います。

様々な立場の人たちの心理描写や背景を知ることができる

小説「正体」では少年死刑囚が潜伏するところどころで様々な違った立場の人たちの心理描写や背景が描かれます。

都会のきれいなオフィスビルで働くOLが抱える悩み、不安定で労働環境も悪い工事現場でしか働くところがない人たちの苦悩、

認知症の義理の親を介護しながら働かざるを得ないパートの主婦たちの苦悩、

そして介護現場の現実。

少年死刑囚が警察の追跡から逃げながら関わった人たちの心理描写も素晴らしかったです。

人には様々な背景があり、考えがあり、悩みながら日々を生きているんだなということを実感できました。

日本社会に重くのしかかる不安要素の一つである認知症と介護問題についても考えさせられました。

まとめ

日本人全体が変わらないといけないのはやはり、他者を必要以上に追い詰め続ける集団心理です。

もしもその追い詰め続ける理由が冤罪だったとしても、責任も取れないような赤の他人がよってたかって、

何年たっても追い詰め続けるというのは異常事態です。

本人が何をどれだけ叫んでも、「言い訳乙~」「思い込み~被害妄想~やったのはお前」

などと逆に精神的攻撃を加速するばかり。

日本人は和を尊ぶ民族とは言いますが、敵とみなした人間を集団で執拗に追い詰めたり、追放するための結束力がすさまじいだけです。

表面上は穏やかで仲良く過ごしているように見えても、異分子とみなせば手のひらを返します。

だからみんな人に迷惑をかけることを極端に恐れて暮らしています。

小説・正体ではやってもいないことで社会からつまはじきにされてしまった人たちの苦悩とそれを追い詰める人たち、

昨日まで親しくしていても噂の一つで手のひらを返すような人たちが登場します。

執拗に他者をわかりもしない癖に追い詰めたり非難したりする権利なんか赤の他人にはない、

その理由が理解できない人間が多いからこそ、このインターネット社会で日本人の執拗な不寛容さがあぶりだされているように感じます。

日本人が持つ心無い集団心理の悪癖が、この小説の力で少しでも変わっていくといいなと思います。

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