ミステリー 書評

だから殺せなかった 書評・感想|人間心理を社会に問う劇場型犯罪

だから殺せなかったというタイトルのミステリー小説を読みました。

新聞紙面上で展開される、連続殺人犯と新聞記者の対決を通して、

社会に人間の集団心理の不条理を突きつるところがこの小説の一番の見所です。

見て見ぬふりをし、人の不幸を拡散することに躍起になる人々、人のプライバシーを暴き、大勢に拡散することに夢中になる様子、

そういったインターネット社会ならではの人間心理が克明に描写されています。

誰もが忌み嫌う人間が次々と殺される

だから殺せなかったの話の中で殺される人々は、いずれも最低最悪の人間たちです。

倫理観念も乏しく、弱者を平気で虐げる、そして身内にも嫌われている、

それにもかかわらず悪行をやめることはない、そんな人間たちが狙ったかのように殺されます。

読者の多くが、小説を読みながらも殺された人間に同情はできないはずです。

人が人を殺そうと思うとき、それは単純に憎しみが原因です。

だから殺せなかったという小説の中で犯人が本当に憎み、殺そうとしたものの正体は何なのか、

真相が気になって最後まで一気に読み進まずにはいられませんでした。

人の日記を平然と盗み読みすると大体ダメージを受ける

だから殺せなかったを読んでいて思ったことは、人の日記を読むとろくなことがないということです。

人のプライバシーを無断で盗み見ることで、この小説の中に登場するある人物は、

自分に関する衝撃的な事実を知ってしまい、大きなショックを受けます。

知らなくてよいこと、知らないほうが何も起こらず、幸せだったことをわざわざ覗いて知ってしまいます。

一度このような場面があると、また勝手に盗み見るのかもと思われてしまいます。

このことが、物語の最後のほうでも影響を与えたある誤解にもつながったように管理人は思いました。

家族だから隠し事はないとは言っても限度がある

家族でもプライバシーはあります。

だから殺せなかったの小説に出てくるある家族の話ですが、

家族でも隠すことはあります。

それは相手を思って、ショックを与えたくないから言わないでおきたいと思うようなことです。

家族だから何でも話すことが良い結果を生むとは限りません。

話したくなる時が来て、自然と自分から話す場合を除いて話さないと本人が決めたことを、

他人が知ろうとする必要はありません。

この小説の中でも、状況証拠だけで決めつけて冤罪が起こりそうになる局面がありました。

何事も真相は当人にしか分からないのが現実です。

そんな中で他人のことを外面的事実からのみ判断することは良い結果を生みません。

主人公の新聞記者の心の中にしかない真相というものもありました。

物事には表面からは簡単にわからない、深い構造があるのだということをだから殺せなかったを読んで思いました。

まとめ

だから殺せなかったは玉木宏主演の連続ドラマとして2022年の1月にスタートしています。

インターネット社会で浮き彫りになった集団心理、人間の無関心の暴力など、集団に潜む本性を暴くこともテーマとなったこの小説は、

現代のインターネット社会の真実の姿をあぶりだしているようにも見えます。

メインキーワードは「暴力」「プライバシー」「インターネット社会における集団心理」です。

一連の殺人事件を通して、救われた者も確かに存在し、読み終えた後は日本社会に巣くう暴力の連鎖について考えさせられました。

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